2021-07-05

今月のワインセット 2021/06

「日曜日にチーズを」。

そんな素敵なコンセプトで活動している〈Sunday Fromage〉のチーズセットが、2021年6月発送の〈bulbul〉のワインセットのお供です。

主宰している倉島ひさよさんは、ていねいに作られたチーズを、小さなポーションで少しずつ販売しています。今回のセットに入っているのは、〈Sunday fromage〉の看板商品でもある熟成コンテに、農家製のマンステール、そしてガレ・ド・ラ・ロワールの3種類。

鈴木「ひさよさんに初めて会ったのは、2017年に西荻窪の〈松庵文庫〉で開催した『bar à bonbons』というイベントでしたね。1回目のゲストだった〈foodremedies〉のかこちゃんと一緒で」

倉島「私が選んだチーズを純子さんのワインに合わせたり、〈foodremedies〉のお菓子に使ってもらったり、すごく楽しいイベントでした」

鈴木「ひさよさんは、チーズの生産地の土地の個性を説明してくださるのですが、そこがワインのテロワールとも重なる部分があって面白いなと思っていて。それで今回は、ワインとチーズの地域ごとのマリアージュを提案させていただきました」

倉島「チーズを買う人は、ワインに合わせたいという人がやっぱり多いんです。そんな相談をうけたら、なるべく同じ生産地のものを勧めています。ないときは、その代わりにバランスが似ているものを選ぶかな」

鈴木「やっぱり地域ごとの土地の話って面白いですよね。チーズもワインも、地域に密着してるものだから。それがその土地や歴史に興味を持つきっかけにもなるし」

倉島「テロワールということで言えば、無殺菌乳のチーズのほうがテロワールが反映されていると思います。微生物が残っている状態のほうが、素材の風味が濃厚だったり、風味が残っている気がする」

鈴木「それはわかる気がします。自然派ワインもやっぱり製法が大切。よくビオワインと何が違うのかと聞かれるけれど、似て非なるものなんです。ワインって畑の作業が半分、もう半分は醸造ででき上がりますよね。ビオワインの”ビオ”という言葉は、有機栽培したぶどうを使っていることにかかっています。対して自然派ワインはぶどうの栽培から醸造工程のすべてが、自然に寄り添っているということ。例えば発酵も葡萄に付着した酵母から成るもので、足さない。だからこそ、造り手の意思が大きく影響する。私はそこにワインの個性と魅力を感じています」

倉島「だから、純子さんが好きなワインには無殺菌乳を使った農家製のチーズが合うかなと思うのかな。もちろん工場製もおいしいんです。たくさんできるし、いつ食べてもおいしいという安定感もある。今回のガレ・ド・ラ・ロワールは殺菌乳を使った工場製。とろっとしてミルク感があって、うっすらカビもまとっていておいしいですよ」

鈴木 「グリーンのサラダと合わせたりのせてもおいしそう。豚肉に添えたりして。ハーブ、フレッシュタイムを添えてもよかった」

倉島「ウォッシュだけど、塩水ではなく水で洗うことで表皮を作って熟成させているから、香りがやわらかくて、ミルキーな仕上がりなんです。なんにでも合わせやすいですよね。ブリオッシュのような甘みのあるパンにも合うし、カリッっとした食感のクラッカーや、ごまや種子のついたパンに合わせると、食感が際立つ」

鈴木「ペイ・ド・ラ・ロワール圏、ロワール川の下流アンジュ地方のチーズですね」

倉島「こちらは牛乳製ですが、場所としてはシェーブル(ヤギ乳のチーズ)の生産が盛んな土地なんです。というのも川があって広い牧草地がないから、ヤギがたくさん飼われている。実は、戦争で負けたからという説もあります。昔は持ち運べる食料として生きたヤギを連れて移動していて、戦が終わるとそのままそこにヤギを置いて帰ってしまう。それで、戦争で負けた土地にはヤギが残ってるというわけ(笑)」

鈴木 「なるほど! そういう歴史や文化って、テロワールを知るのにとても大切。その土地の根っこの部分を知ることが、テロワールを知ることだと思うから」

倉島「フルーティーな赤ワインが合うと思っていましたが、純子さんにかるめの赤、ミネラリーな白も合うんじゃないかと教えていただいて」

鈴木「ナチュラルワインは、あまり色が関係ないというか、ワインのペアリングの常識が当てはまらなかったりするんですよね。今回ご用意したのは、同じアンジェ地区のグザヴィエ・マルシェのエリクシール・ドゥ・ロング・ヴィ2017。

いつも食卓でたくさんの会話が飛び交うグザヴィエ。対話を大切にしている彼が造る、カベルネ・フラン本来のピュアな味わいを感じるワインです」

彼が住む簡素な古い建物には、扉や窓がついていない箇所も。それらを自分たちの手で修繕してきたのだそう。

一方、無殺菌乳で作られた農家製のマンステールは、アルザス地方のもの。合わせたワインは、フランスで最も美しい村の一つと言われている場所でリエッシュが造るリースリング  ・シュタイン2016です。

倉島「アルザスの伝統的なレシピに沿って手造りされた農家製マンステール。使うのは、一つ屋根の下の牛のミルクだけ。ほかのエリアのミルクと混ぜずにチーズを造り、熟成まで同じエリアで完成させます。塩水で繰り返し洗うことで、オンレジ色の表皮をしていますが、中の生地は弾力があり、ミルキーな味わい。均質な塩味とおおらかな熟成が魅力です」

鈴木「農家製というところに惹かれるし、造り手の個性が感じられるものが好きです」

倉島「一般的な工場製だと200gなんですが、これは800gと大きめサイズ。放射状にカットしてお届けしています。ごまや種子のついたパンに合わせたり、クミンシードを添えてもおいしい」

鈴木「ワインで言うと、アルザスはブルゴーニュやボルドーなどと同じように、グランクリュまであるような伝統的な名醸地。だからドメーヌの説明も、いかにここが名門かということを伝えることが多いんです。リエッシュも18世紀から続くお家柄ですが、その体力のおかげで、きちんと寝かせて熟成してから出荷できる。ひとつ前のビンテージが2016年ということからもわかるように、とても贅沢な環境なんですね」

当主のジャン-ピエール。中央に写っている女性は、エチケットを担当しているアーティストのアンドレア。

そして、基本のワインの3本めは、ジュラのロクタヴァンが造るプティ・プソ2018。

鈴木「栽培醸造家のアリスは、醸造学者のディプロムを取得の、高度な醸造テクニックを持っている造り手。ネゴスもドメーヌも合わせると、15種類ほど作っていて、いろんな実験的なキュベも作っています。

以前は栽培を担当するご主人と作っていたのですが、離婚されてからロクタヴァンらしい味わいになるのに時間がかかるようになってたんです。それが、今回のキュベはすでに、昔のロクタヴァンを思い出させる素晴らしい味で。ずっと同じ造り手のものを飲み続けていると、そういうことも感じられるのが面白い。次に会ったらいろいろと話を聞きたいなと思っています」

倉島「チーズは、ジュラ山脈の豊かな自然の中で職人さんが手造りしているコンテ・ド・モンターニの12ヶ月以上熟成をご用意しました。12か月以上の熟成コンテからは、溶かしたバターの香りや栗、ヘーゼルナッツ、チョコレート、コーヒーといった複雑なアロマが重なり、奥深い味わいが広がります」

鈴木「コンテ熟成させていく楽しみは、ジュラの白ワインとも似ている気がします」

倉島「このコンテを熟成したのは標高1100M。サンタントワーヌの〈マルセル・プティット社〉という名だたるチーズ商たちに信頼されている会社が、熟成・管理をしています。ジュラのワインはもちろん、ウッディな香りのワインがよく合う。プロシュートを巻いたり、クルミを添えたりしてもおいしいですよ」

鈴木「やっぱり同じ産地のもの同士は合いますよね。葡萄とチーズもどこか似ているし」

倉島「こうして外食しなくても、チーズやワインを楽しむことで、ちょっと旅行した気分になれるのがいいですよね。私は特に、フランスの主婦が家事や料理の延長線上でチーズを作っている感じが好きなんです。暮らしに馴染んでいる感じがする」

鈴木「生活に根ざしていますよね。以前、オーベルニュ地方の造り手が出してくれた夕飯が、質素なにんじんやキャベツといった野菜だけのスープだったんです。そこに、硬くなったサンネクテールを各自が削りながら入れながら食べていたの。それがなんだかすごく響いて」

倉島「いいですよね、そういう感じ。〈Sunday fromage〉という名前も、チーズが日常に馴染む感じを出したくてつけたんです。チーズって価格に幅があるし、日本にはまだまだハードルが高いところがあるかもしれないけれど、日曜日っていうリラックスする時間と合わせて楽しんでもらいたくて」

鈴木「フランス人にとってチーズは切っても切れないもの。レストランでも、おなかがいっぱいだからデザートスキップしようって言いながらチーズを食べてる(笑)。でもフランスの生産者たちの生活している場所を見ると、レストランで非日常に食べるものだけではないんだなと思う」

ワインやチーズは、そんな日常の暮らしの豊かさが伝わってくるもの。テロワールを感じながら、ゆったりとした気持ちで楽しんでいただきたいという想いを込めて、6月のワインセットを送ります。

Edit & Text by Shiori Fujii

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