2021-09-30

今月のワインセット 2021/07

自然派ワインに合うピクルスがあったら……。
そんなbulbulの願いを叶えてくれたのが、長野でピクルスを作っている〈midolis〉でした。

作っているのは、山とウィンタースポーツが「生きている楽しみ」というくらい大好きで、そのために長野に移住したという石森美登里さん。若い頃から週末ごとに山に通っては、ウィンタースポーツの傍ら、春は山菜、秋はきのこを採っていたとか。「楽しいあまりに食べるよりも採りすぎてしまう。
でもせっかくの自然の恵みを、どうにか飽きずに食べ切りたい」という想いから、ピクルス作りがスタートしました。2021年7月のワインセットのお供は、「自分の手で作り出すことを生業にしたい」と昔から漠然と思っていたという石森さんのピクルスです。

鈴木 「自然派ワインは、その季節にその土地のものだけを使い、何も加えずに作っていくもの。みどりちゃんのピクルスはその点も同じだし、ワインと同じように熟成もするピクルス。だからずっと一緒にやりたいなと思っていたんです」

石森 「私もワインに合うピクルスを作りたいと思っていました。というのも、私はお漬けものが大好きでたまらないんです。だけど、同じ世代の人たちはあまり食べない。それは今の食卓には合わないこともあるかなと。でもピクルスだったら、お肉やワインが並ぶ食卓に気軽に取り入れやすいと思ったから」

鈴木 「みどりちゃんのピクルスは、自然派ワインの輪郭と重なるようなピクルスだよね。昔ながらのお漬けものと同じように、旬を閉じ込めるために作ってる。そして何も足さない。ゴールを目指して作るのではなく、調整はするけど、素材の力に任せるというか。そこが自然派ワインと似てるんですよね。より多くの人に届けるという観点では、いつも仕上がりが安定しているほうがいいかもしれないけれど、今年と昨年のワインの度数や味わいが違うのは自然によるものだと考えるのが自然派」

石森 「私もそう思っているから、ミックスピクルスは作りません。彩りのために旬が違うものを混ぜたりしたくないし、素材はそれぞれに火入れの瞬間が違うから。純子ちゃんは、私のピクルスを今まで食べてきたからこそ、そういうこともわかってくれているのかなと思う」

鈴木 「そう、作りたいもののために自分の意見を強く出す、というのは自然派じゃないんですよね。素材を組み合わせるとしても、同じ旬のものを選ぶ。先日、みどりちゃんの畑へアーティーチョークを見に行ったら、パクチーの花が実になり始めていて、それを混ぜたらどうかな、という話になりました。畑の風景をスケッチするようなピクルスができそうだなって」

石森 「パクチーの実を使いたい、と言われれば、なるべくフレッシュを使います。ドライは手軽だけど、フレッシュはそのとき自然にあるもの、だから。最初は採りすぎたこごみをピクルスにすることから始めたように、旬を閉じ込めたいっていう気持ちがいちばん強い。食べきれなかったら加工して保存する、というのが、本来の生き方だと思うし、暮らしの楽しみでもあるんです。自分で作れば好みの味にできるしね」

鈴木 「そういう加工品って、究極の時短料理だよね。ピクルスなんて、ちょっと手を加えて出せば素敵なひと皿になる」

1980年代から継続してビオロジックによる栽培を行っているトマ・ルアネ 「ル・ヴォルティジュール 2015」。南仏のイメージを覆す「果実のフレッシュさ」を尊重する彼らしい、余韻まで美しいワイン。

石森 「都会で暮らす友人たちと話していると、野菜や果物に対する感じ方が違うなと思うことが多いんです。それがなにかといえば、土からの距離だと思う。私は山に毎週末通うという生活を20年やっているけれど、都心の人たちは作物が育つところを見たり感じたりしていないでしょう。

でも私のピクルスを食べることで、その距離が少し縮まるかもしれない。野菜や果物そのもののおいしさを感じて、こないだの杏と今日の杏はどうしてこんなに香りが違うんだろう、って考えるきっかけになったらうれしいなと思います。その答えは畑に行き着くはず。あの年の気候、あの土地の空気。そこに気付いたら、見える世界が変わるかもしれない。気づく人だけが気づけばいいというささやかな主張ですが」

鈴木 「人は、いろんなことが重なって気づくものだと思う。今日じゃなくても、来月かもしれないし、来年かもしれない。みどりちゃんのピクルスを何度か食べていて、ある日、別の農家さんの野菜を食べたときに気づくかもしれない」

石森 「そうね、それぞれのタイミングでなにか気付けたらいいよね。私のピクルスが、その重なりの一層になれたらいいなと思っています」

環境を大切に、自然の仕組みに寄り添った農業を行うローラン・ルブレ「ラ・ソーヴィニョンヌ2019」は、まるで真夏のテラス席で楽しむフルーツボウルのようなオレンジワイン。柑橘系のピクルスやサラダ、エスニック料理にも合う。

鈴木 「さて、今回は、こごみ、金柑、アカシアの花、塩レモンという4種類のピクルスを作っていただきました。まずは〈midolis〉の始まりのきっかけになったこごみから」

石森 「使っているのは、秋田でまたぎをしている河田さんという方が採取したこごみです。比類なき素晴らしいこごみなので、シンプルにそのまま食べて、香りとか食感を味わっていただきたいです。ほかのピクルスと違って、オイルを少し入れているのは、こごみが油と相性がいいから。オイルベースのパスタに、ベーコンと一緒に合わせたりしてもおいしいですよ」

鈴木 「素材の持つ力を生かした〈midolis〉らしいピクルスですね」

石森 「金柑は、デザートにもおつまみにも合うような、甘酸っぱいフルーツピクルスです。酸があるので後味はすっきり。ジャムのような感覚で使っていただけますが、私はブリオッシュにマスカルポーネと一緒にサンドするのが大好き! ブルーチーズと合わせればワインのアテになるし、豚肉のソテーに添えてもおいしいですよ」

生物多様性を重視した農業を行い、できる限り手作業でワインを作るドメーヌ・デ・グロットのロマン。ピアノ演奏が趣味で、仕事の合間に畑で演奏を楽しむことも。

鈴木 「今回のセットに入れたロマンの泡(ドメーヌ・デ・グロット 「ドライ・パラダイス2020」)は、アプリコットやプラムみたいな香りがあって、夏の果実の酸があるやさしい甘味なのですが、それによく合いました。

そして、ロマンチックなアカシアの花の蕾のシロップ漬け」

石森 「アカシアの花は生産者がいないから、自分で採取することになる。私は作ることに専念したいから手を出さないつもりだったのに(笑)。

花は目で楽しむ用で、味わうのはシロップがメインです。花を食べたいときは、固い茎を外して。シロップは、フレッシュチーズにオリーブオイルと一緒にかけたり、ソーダで割ったりしてもおいしい。なかには発酵しやすいものがあります。2〜3週間で酸味が出てくるかもしれないけれど、それも楽しんでもらえたら。発酵の理由は、花粉のせいだと思います」

鈴木 「ちょっとはちみつっぽい香りがしますよね」

石森 「幸せな香りでしょう。この花が咲いているとき、周囲は甘い香りが漂うんです。はちみつっぽいのは、一般的な百花蜜はアカシアの花のはちみつが多いからかな」

鈴木 「果物とモッツァレラに合わせて楽しむのもおすすめですよね。私は果物をマリネするのに使うのが好き。アカシアの花のニュアンスが加わって、とてもおいしくなります」

石森 「塩レモンは正確には日本でいうピクルス(酢漬け)ではないのですが、大好きで作っているもの。1ヵ月くらいかるく発酵させてから瓶詰めしています。やっぱりタジンのような煮込みに合う。カットせずに入れて煮込むと、お箸で皮が崩れるくらいとろっとした食感になります。それを蒸し煮にした具につけながら食べると、レモンの皮の発酵の風味が感じられておいしい。日本人は好きな香りだと思います。

我が家でよく作るのが、鶏のソテー。塩レモンを鶏のもも肉に揉み込んで10〜15分ほどおいてから焼くだけの時短料理です。「もう一品足りないからなにか」っていうとき、ただの塩焼きよりも料理をした感じがあって、満足感がある。

鈴木 「〈midolis〉のピクルスは添加物や合成調味料を使用していないので、瓶詰めにした後も熟成が進んでいくのが特徴。食べるタイミングによって異なる味わいを楽しんでいただきたいですね」

ワインと一緒にテロワールを感じ、経年変化を楽しんでいけるピクルスを、ぜひお楽しみください。

Edit & Text by Shiori Fujii

関連記事