with 洋菓子店 SAVEUR(サヴール)
1月のお供は、キリッとした角が美しい直方体のバターケーキ。
ストイックなまでに洗練された佇まいのケーキはたっぷりのバタークリームに包まれていて、ナイフを入れると口溶けのよいスポンジとホワイトガナッシュの層が現れます。
今回は、そんなSAVEUR(サヴール)のガトー・ア・ラ・クレーム(バターケーキ)とbulbulのワインに共通する、幸せな記憶についてのお話をお届けします。
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鈴木「実はSAVEURを営んでいるのは人気アパレルブランドのYAECAで、恭子さん(井出恭子さん)とは仲良し。bulbulをスタートしたとき、ちょうどYAECA HOME STOREで企画していたフードイベント”5月の家“とタイミングが合って、参加させてもらったんだよね」
井出「私も純子さんが身近にいたこともあって、SAVEURのお菓子はお酒と合わせることを自然と考えていました。もともとお酒とデザートという組み合わせがすごく好きで、買ってきたお菓子とお酒を一緒に楽しむことが多かったの」
鈴木「私は実は、ワインを仕事にするまでは、お菓子を組み合わせるのに苦手意識があったんです。ワインよりも蒸留酒とかリモンチェッロとかのほうが合うだろうな、と思っていたの。でもbulbulを始めてから、その楽しさに気づいて。みんなお菓子が大好きだし、組み合わせて送ることも増えました」
井出「お菓子とワインって嗜好品としての立ち位置が似ているというか、買うときの楽しみ方が同じような気がする」
鈴木「恭子さんはおいしいお菓子に詳しいよね」
井出「もともと好きではあったけれど、SAVEURを始めてもっと好きになったかも。仕事にすることで、真剣に向き合うようになったというか」
鈴木「わかります。私もワインが好きで仕事にしたけれど、bulbulを始めてから、それまでは感覚で好き、だったのが、系統立ててロジカルに考えられるようになりました。造り手との会話も変わって、修行先がわかったり、使っている葡萄の出自を当ててしまったりなんてことも(笑)。ワインを頭で勉強したことがないから、あくまで感覚ではあるのだけど」
井出「伝える立場になると変わるってことあるよね。視点が変わるのかな」
鈴木「私のテイスティングって、味だけではなく、その人の意思を探るようなものなんです。造り手がどんなワインを造りたいのかという未来を知りたいの。だから造り手たちは私のことを覚えてくれるし、親しみをもってくれるんだと思う」
井出「ワインってただ飲んでいてもおいしいけれど、背景を知っているとよりありがたみがわかるんだろうなあ。造り手からしても、理解されることの喜びってきっとあるよね」
鈴木「SAVEURもただおいしいだけじゃない深さを感じます」
井出「SAVEURが目指しているのは、言ってみれば東京の郷土菓子なんです。東京って世界中のおいしいものが集まっているけれど、そこから独自の日本の味に育ったものもたくさんありますよね。ショートケーキとかカステラとか、もともとは舶来なんだけど今やとても日本らしく成熟しているものたち」
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鈴木「ある。子どもの頃に食べた、下町のケーキ屋さんのバタークリームケーキはおいしくなかったけれど(笑)」
井出「そう、たくさんおいしいものを知ってしまった大人は、子どものときに好きだったお菓子を今食べたらおいしくないのかもしれない。だけどお菓子のイメージって記憶に直結していて、お母さんと誕生日に一緒に買いに行ったケーキの幸福感って、単純に味だけでは説明できないものがあるじゃない?」
鈴木「ありますね、そういう懐かしさにリンクするおいしさって」
井出「そんな懐かしさと、今食べておいしいと感じる味を両立するもの。それが今の東京らしさじゃないかな、と思うんです。それでできたのが、SAVEURのバターケーキの味と形なの」
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鈴木「記憶のなかの味って、誰と、どこで、どんなふうにっていうことがポイントになってくるよね。ブルブルが届けたいのも、単にセレクトしたワインだけではなく、そういうワインのある幸せな食卓なんです」
井出「とはいえ、私がお菓子を作れるわけではないから、パティシエと一緒に試行錯誤して。洋服を作るときに、襟のサイズがあと1mm、肩のラインをもう少し丸く、とこだわるときのように、小麦粉をあと5g、温度を下げてみて、とトライ&エラーを繰り返しました」
鈴木「ものづくりに共通するものはあるんですね。そう考えると、SAVEURはすごくYAECAっぽいお菓子なのか」
井出「そうかもしれない。純子さんがSAVEURのケーキに合わせてどんなワインを選んでくれたのかも気になるな」
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鈴木「デザートと合わせたいワインといえば、やっぱり泡かなと。だけどバターケーキはボリュームがあるので、3年分の葡萄を使っていて複雑味のあるリエッシュのクレマン・ダルザス・エキストラ・ブリュットを選びました。17年、18年の葡萄をアッサンブラージュしたところに、補糖せずに19年の葡萄ジュースを足すという贅沢な造り方なので、凝縮した味わいが楽しめるんです。泡なんだけど、葡萄のエキスがしっかり感じられる」
![Vins d'Alsace Rietsch (Jean-Pierre Rietsch) — Wines Under the Bonnet](http://static1.squarespace.com/static/570215b57c65e42063f364ee/t/5c6c3e1a104c7b6cbebf06e8/1550598026969/20181015_145722.jpg?format=1500w)
井出「聞いているだけでおいしそう」
鈴木「2本目は、丸みのある旨みがかんじられる品種であるシュナン・ブランを使った、ジェローム・ランベールのクーレ・ド・ソース。残糖ゼロで、きちんと酸があるけれど丸みがあるから、バタークリームを受け止めてくれる。柑橘の味わいとか、葡萄を皮ごとかじったようなジューシーな味わいもあるので、バターケーキにフルーツソースとかグレープフルーツを添えるような感覚で飲んでいただけたら」
![](https://vortex-wine.jp/wordpress/wp-content/uploads/2019/07/Jerome-Lambert-960.jpg)
井出「絶対、合うね。ほかのお料理にも合いそう」
鈴木「3本目は大好きなピノ・ドニスを使った、オ・ミリユー・ドゥ・ヌル・パー。bulbulのエクスクルーシブワインです。ここではないほかの場所へ、という名前も素敵でしょう。スパイシーで、軽やかで繊細なタンニンと、柑橘のゼストのようなニュアンスも少しあって。バターケーキに赤い果実を添えて食べるような感覚かなあ」
![Box 3 vins: bulbul インポートワイン Du Vin Aux Liens ...](https://p1-e6eeae93.imageflux.jp/c!/f=jpg,w=1200,u=0/bulbul/040fab933212cc9b1c91.jpeg)
井出「季節とお菓子に合わせて選ばれたワインって、聞いているだけでときめくね」
Edit & Text by Shiori Fujii