2021-10-21

今月のワインセット 2021/08

bulbulを始めるとき、店主の鈴木純子が最初に相談したのが、パリ9区の〈Faggio Osteria a Paris〉で働く山本昌晃シェフ。

山本さんは日本でイタリア料理を学んだのち、フランス料理に移行して2007年に渡仏。以来15年、三ツ星レストランや8区の〈STELLA MARIS〉などを経て、ピエール・ジャンク(パリで次々と話題の店を手がけてきた人物)と出会い〈VIVAN〉へ、そして現在の〈Faggio Osteria a Paris〉に至ります。そんな山本さんとの会話から、bulbulで提供したいのは、ワインだけでなく、フランスでは当たり前のように存在している豊かな時間の過ごし方というコンセプトが生まれました。

2021年8月のワインセットは、山本昌晃シェフのルセットと、それに使う野菜やチーズといった素材を合わせてお届けしました(you tubeもご参照ください)。

鈴木「昌晃さんのお料理は、素材をそのまま生かした、フランス料理の真髄みたいなクラシックなお料理ですよね」

山本「もともとはガストロノミーの世界で修行していたけれど、ピエール・ジャンクがやっていた〈VIVANT〉で働いていたときに、シンプルな料理がいいなと思うようになりました。三ツ星レストランだと昔ながらの縦割り制度で仕事をするものだけれど、〈VIVANT〉は小さな店だったし、農家から野菜を仕入れるところまで自分の仕事だったんです。良い食材を見ていると、変にいじるよりもシンプルに料理したほうがいいと思うようになって」

鈴木「ガストロノミーの世界に戻りたいと思うことはないんですか?」

山本「よく聞かれるけれど、今のほうが合っていたんでしょうね。もちろん火入れとかのテクニックは必要だけど、良い食材をシンプルに料理する、というほうが論理的にしっくりきたんだと思う」

鈴木「ワインもすべて自然派で酸化防止剤も入っていないものばかり選ばれていますよね」

山本「今の店は規模が大きいので、ワインはソムリエに任せているけれど、造り手を訪問したり、店に来てくれた生産者と一緒に飲んだりしています。造り手のなかでは、ジャン=ピエール・ロビノが人間っぽくて好きですね。よく来てたしね」

鈴木「私がパリと日本を行き来しながら暮らしていたとき、昌晃さんに会うたびに、どうやったらワインの仕事ができるかなと相談していたんですよね。日本では1人でカウンターに飲みに出かけるのが好きだったけど、フランスでは1人であまり飲みに行かない。フランスでの食事の時間は、会話とその場の雰囲気を楽しむためにあるから」

山本「フランスでは、家で豪華なものを食べるわけじゃないけれど、会話と楽しい時間がある。みんな会話がないと生きていけない人たち」

鈴木「フランスでの外食はとても特別なもので、家を出て、素敵な街並みを歩いて、テーブルで楽しい時間を過ごして、帰るまでの時間も含めて外食の楽しみなんだって言われました」

山本「とにかく会話が人生の中心にあるよね」

鈴木「そうなんです。だからbulbulでは、そういう時間をも含めて届けたいなと思った。ワインのプロとしてのキャリアがない私が、ワインショップをやる意味ってそこにあるんじゃないかなと思ったんです。それで昌晃さんに『ワインだけじゃなく、テーブルまわりを一緒に届けられたらいいな』って相談したら、『いいんじゃない? おまけのルセット考えるよ』って言ってくれて」

山本「でも僕は普段、家で料理を作らないから、家庭用のルセットを考えるのは大変だった(笑)。コロナのおかげで仕事が休みになって、家で料理をする期間があったからやっとできたようなもの」

鈴木「いつもは朝の買い付けからノンストップで深夜まで働いていらっしゃるから、とてもじゃないけど頼めない(笑)。でも家でご飯を作って食べるようになって、どうでした?」

山本「すごくいい時間でした。今まで本当になかった自分の時間を持てたのがすごくよかった。それでステイホーム中に作った料理の写真を純子さんに見せたら、そのなかでおつまみっぽいもの、がっつりメインというよりはちょこちょこつまめるようなものを教えてほしいって言われて」

鈴木「じゃがいものコンフィ〜ディル入りマヨネーズソース〜は私がリクエストしました。すぐにできるし、すごくおいしい!」

山本「ディル入りマヨネーズソースができれば、あとはのっけるだけだからね。みんなが作ってくれた写真をインスタグラムで拝見したけれど、人それぞれの仕上がりですごく面白いなと思いました。今までメディアは苦手で取材もレシピ提供も断ってきたから、こういうことは初めてで」

鈴木「みんな作ってくれて、すごくきれいでしたよね。じゃがいもやバジルは大好きな農家の〈ファームレガーロ〉さんにお願いして、トマトと桃のサラダに使うフェタチーズはbulbulでもお世話になっている〈sundayfromage〉さんに上質なものを仕入れてもらいました」

山本「プリンのルセットも純子さんのリクエストでしたね。お店で出している定番ですが、家庭用の少量でカラメルを作るのが難しくて、試行錯誤したルセットです」

鈴木「すごく嬉しかった! プリンに使うバニラビーンズや、塩、胡椒なんかはフランスで買ってきたものを送りました」

山本「じゃがいものコンフィのマヨネーズソースは、アレクサンドル・バンの複合的な味わいのワインにも合うと思います。今回のセットには、Terre d’Obus 2017が入っているんですよね」

今年7月の渡仏時に訪問したアレクサンドル・バン。今年の作柄が厳しいことを、畑で実感…

鈴木「クリスチャン・ビネールの2012年のHinterbergにもぴったり。酸化熟成したワインで塩味もあって。ぜひお料理と一緒に楽しんでいただきたいです」

コロナ渦により1年と数か月延期されたアルザスのサロンにて、ロビノと談笑中のクリスチャン。
その夜のソワレ用に、年代もののジェロボアムボトルでワインをふるまっていた。

山本「トマトと桃のサラダは、やっぱり泡に合わせてもらいたいですね」

鈴木「ジャン=ピエール・ロビノのピノ・ドニス、Concerto de Venise2019にも柑橘系やスパイスのニュアンスがあるから、キンキンに冷やし目から合わせてほしい。2019年は暑い年で凝縮した味になっているから、最初は冷やして飲んで、だんだんと次の料理に移るに連れて温度が上がっていく、という楽しみ方もいいですよね」

7月の訪問時、ピノ・ドニスの畑にて。畑に映える花に顔を寄せて歌う、ロビノ。
おちゃめな一面を見せてくれた。

山本「そういう時間がいいよね。レストランでも、料理がおいしいにこしたことはないけど、サービスとか空気感とかがいい店ってやっぱり流行る。僕もいつか自分の店を持つなら、そのバランスがとれた店を作りたいなと思っています」

鈴木「昌晃さんって手先が器用で、タブリエやシャツも自分で縫ったり、音楽もやっていたり、DIYもできちゃったりするんですよね。いつか自分のお店を持つなら、きっと全部自分で作るんだろうな、畑の近くで」

山本「やっぱり生産者の近く、作り手の顔が見える場所がいいよね。そして食べるっていうことは、とにかくサービスも空間も大事」

鈴木「本当にそう。ブルブルでもそんな楽しい空気を伝えられたらいいなと思っています」

Edit & Text by Shiori Fujii

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