2022-06-21

今月のワインセット 2021/11

お酒のつまみと言うとしょっぱいものを思い浮かべがち。でも11月にお届けしたのは出張料理人、岸本恵理子さんのお菓子なんです。 さて、その心とは?

鈴木「人呼んで”流しの料理人”である岸本恵理子さんとは長く深い付き合いで、よく家に来ては料理を作ってくれるのですが、恵理子さんが作るお菓子も大好きなんです」

岸本「今回のセットには、私がよく作っているお菓子たちを入れました。生地や焼き方、アイテムといったベースは定番なんだけど、そこに加える香りや風味は、季節やタイミングによってさまざまです。例えば今回のカントゥッチなら、ワインに合うようにくるみとゴルゴンゾーラを入れたり、ポルボロンには旬の国産ベルガモットで香りをつけたり、ルゲラにはちょうど手に入ったスリランカ産のシナモンを入れたりという感じにね」

鈴木「フィナンシェに入れたローゼルも出会いものだったよね」

岸本「そう、四国を旅してる間に、次のワインセットについて話をしていたとき、そこで栽培しているローゼルが手に入ることになった」

鈴木「11月はやっぱりボージョレヌーヴォーの時期だから、ガメイがいいかなって話をしていて」

岸本「そのフレッシュ感を活かすには、同じ季節で得られる何かがいいなと思っていたところにローゼルと出会って、それはガメイと絶対合うなって即決」

鈴木「入れたガメイはエム・キュ・ヴェー のアム・ゲイ 2019。葡萄を丸かじりしているような、チャーミングな果実味をストレートに感じるから、ローゼルとは絶対に相性がいい。恵理子さんとはワインの好みも似ているから、いつも話が早いんです(笑)」

一番下のワインがアム・ゲイ 2019(エム・キュ・ヴェー )。フレッシュ感あるガメイは、
畑の季節の出合いもの、ローゼルを使った焼き菓子と。

岸本「フィナンシェには、ベリーをしっかり煮込んだジャムを入れることもあるけれど、今回は生のフルーツを焼き込むくらいがいいなと思いました。でも発送するし、ローゼルのコンフィチュールの酸がある感じならちょうどいいかもと。寒い時期でもあるから、はちみつも加えてほっくりした感じに仕上げました」

鈴木「フィナンシェの生地にはナポレオンも入っているんだよね」

岸本「ローゼルを煮るのにはワインを使って、生地の香り漬けにはアルマニャックを使いました。ラム酒にするか迷ったけれど、ワインと同じブドウが原料のお酒がいいかなと思った」

鈴木「アムゲイを作っているマエル・コンタンは植物学者出身から、より自然の近くで仕事をしたいとヴィニュロンに転職した人。彼らの、それまでと全く違う仕事なのに軽やかにトライしていく感じや、固定概念のない生き方は、私がヨーロッパに惹かれるところでもあるんです」

岸本「もう1本のワインは、マタンカルムの9年寝かせたものだったから、フレッシュな要素よりも落ち着いた重心の低い感覚のものを合わせたくて。それでカントウッチとかルゲラを作りました」

鈴木「マタンカルムでは収穫時に研修生をしたこともあるんですが、カリニャンの山の上の斜面に樹齢120年の国宝みたいな葡萄の木が生えているんです。あまり実がたくさんはつかないんだけど、すごくしっかりしたテロワールを持っている葡萄で。これで、適正な時を経たワインのおいしさを体感してもらえるような機会になれば、と思って入れました」

岸本「彼の赤ワインは秋とか冬が似合うから、ルゲラに入れたシナモンも、鮮烈なつきさすような香りではなく、いちごジャムのような甘さと奥行きのある香りのものを使いました。森の中で息をひそめながら生きてるような香りなの」

鈴木「詩的な表現! 伝わってくるなあ」

岸本「純子さんがワインを選ぶときはきっと、そのタイミングでみんなに季節感を感じてもらえるようなものを選んでいるだろうなと思うの。お菓子にもその感覚を入れたいと思っていて、同じ季節にこの地球上に存在しているものは、恐らく相性がいいだろうという感覚で、風味を選んでいます」

鈴木「地球上! さすがスケールが大きい」

岸本「地方料理と地方のワインが合うのはもちろんなんだけど、私たちがいるこの場所で、こんなワインが飲みたいよなーって思う気持ちはきっと共有できる。ちょっと曇ってて昨日よりもしっとりしていて肌寒いから、スカッとしたハーブティーよりおちついたやつがのみたい、深煎りコーヒーにミルク入れたりしたいなっていう、そういう肌感覚で考えてる」

鈴木「やっぱりその場に行かないとわからないことってある。空気とかそのにおいとか情景とか。知識としてはもちろん手に入るけど、石灰質の土壌でっていうよりも、そうじゃなくて、実際に自分が知りたい、自分の感覚で。シンプルに生き出したら魅力的すぎて通うようになった。恵理子さんとやっぱり似てるなって思う。それを知って理解したい」

岸本「私も現地の空気感を体感することはすごく大事にしているかな。それは義務とかではなく、これまで旅するたびに、その場の空気に感動したことをアウトプットするのが私の仕事になっているから、もはや行かないとわからない」

鈴木「行かないとわからないよね。でも恵理子さんは本当にフットワークが軽い。そこ近くないから!っていうところも、ついでに寄ったりするよね」

岸本「だって例えば、来月、ラトビアのケーキ作ってね、って言われても、今からは行けないから、機会があったら訪れるようにしてるんだ(笑)」

鈴木「住んでいたほど詳しいイタリアでも、幾度も行っているよね」

イタリアはトスカーナの「パーチナ」での昼下がりの一枚、恵理子さんとの旅時間。

岸本「同じ国でも、そのときそのときで全然違うから、行くほどにまた行きたくなる。イタリアは特に、今まで行った場所も再訪したいし、行ってないところも山のようにあるし。本当に飽きないの」

鈴木「恵理子さんはイタリアでワインが呑めるようになったんだっけ」

岸本「それまでももちろん少しは呑んでいたけれど、今みたいに執着心はなかった(笑)」

鈴木「今やワインはガソリンだもんね」

岸本「呑めるようになったきっかけは、イタリアのアブルッツォのレストランで働き始めたときに、余ってるワインを飲んでいたこと。地方ごとのワインがたくさんあって、毎日毎日少しずつ余ったワインを営業後に呑んでいたの。そしたらね、それまでテイスティングの勉強とか、日本で呑んでいたのとまったく違った」

鈴木「どんなふうに違ったの?」

岸本 「なんというか、からだにしみこむような感じがあった。今思うと、日本に出荷されてるヨーロッパのワインって、(品質を安定させるための)酸化防止剤の量とかがすごく多かったんじゃないかな。だけど現地ではもちろんそんな量は不要だから入っていないし、近くの生産者から瓶で買ってきたものなんて、ほとんど入っていない。意識してナチュラルにしてたわけではなく、必要ないから入っていない、っていうワインだったんだよね」

鈴木「酸化防止剤って、入れると輪郭ができるような感覚がある。『私はワインです!』ていう顔をもつような」

岸本「終着点が同じになっちゃう感じがあるよね。でも私たちが好きな自然派ワインって、カテゴリーとしてはワインなんだけど、ひとつひとつがそれぞれの生産者の作品、農作物なわけで。それぞれキャラクターのあるもの。安定していなくて、バラバラの個性がいい」

鈴木「私も自然派ワインに出会うまで、お酒はあまり得意じゃないって思ってた。からだに入ってくる感じがなんの抵抗もないっていうのが衝撃だったかも。アルコールだからアルコール感ってあるはずなのに、それもまったくない。自然派ワインは日々の料理と合うとも感じて、好きになったんだよね」

岸本「自然派ワインに出会って、これおいしいな、どんなところで、どんな人が作ってるんだろうっていう興味が出てきて、今は普段呑むお酒はほとんどが自然派ワイン。必然的に、作る料理はすべてワインに合うようになっているし、お菓子もそうなんだよね」

鈴木「お菓子に合わせるワインっていうと、デザートワインというのもある。だけど私は甘味が残ってるワインがちょっと苦手で。でも普通のワインもデザートと合うと思っているんだよね。特に先入観なく楽しめるのが自然派だと思うので、気兼ねなくお菓子と合わせてもらいたいな。

特に今回のbulbul エクスクルーシブワイン、オレンジワインのフュージョン・ヴィヌーズ Fusion Vineuse 2019は、デザートにもすごく合うと思う。はちみつとかカラメルっぽいニュアンスもあるし、ミネラル感が強いワインなの」

岸本「私もワインに合わせるからということは、特に意識していないかもしれない。ケークサレとかゴルゴンゾーラとかは間違いなく合うんだけど、それよりも、素材選びがポイントかな。たとえば今回ルゲラに使っている小麦粉もシナモンも、無農薬で石臼引き。シナモンはスリランカから最上級のグレードのものを取り寄せている子に頼んでわけてもらったんです。『明日石臼で挽いたものを送ります』っていうくらいなの。ゆっくり挽くことで熱が入らずに香りが飛ばない。そういう丁寧に作られたもの同士の素材って、それぞれが味わいを持っていて、かつ仲良くできるんですよね。料理人としては、その相乗効果がすごく楽しい」

鈴木「ワインも絶対にそう! 産地とかだけでなく、肌感覚とか、同じように方向を向いて作られたものだったら合わないわけがないよねって思う。その感覚とか根っこにある知識みたいなのが、自分がペアリングしたときに大事な鍵になる気がする。だからそういう背景を知りたいと思うきっかけになるんだよね」

岸本「だから作り手に会いにいって、そういう点と点をつないだ線を知りたいんだよね」

鈴木「もうひとつ、ペアリングについて言うと、私はコンプレックスな味わいのワインが好きで、そこがプレーンなブドウジュースとワインの違いだと思うんです。品種ごとの持ち味をミックスしてチューニングすることでバランスをとっていたりね。そうすると料理にも合わせやすくなる」

岸本「料理にもお菓子にもいろんな要素があるから、そのどこかがうまく合えばいいんだよね。正解なんてない、私はこれとこれを合わせるのが好き、っていうのでいいと思う。それは誰にも否定できない」

鈴木「だから、これとこれのペアリングがベストだよっていうのはあまり言わずに、それぞれで楽しめばいいと思ってる。味覚とか体調とか口の中とか、人によって違うだろうし」

岸本「組み合わせによって感じる要素も変わってくるよね。同じワインでも、ルゲラと一緒に食べたときに感じる要素と、玉ねぎスパイスのケークサレと食べたときに感じる要素って多分違う。これにも合うのに、これにも合うね!って楽しいよね」

鈴木「合わせるものによってワインの飲みごろも変わるだろうし。今はフレッシュなサラダに合うけど、3年熟成すると肉料理に合うとかね。合わせる料理の幅も広がる」

岸本「ね、だからきりがない。自然派ワインは本当にハマると沼なんです。1日1日違うんだもの。よく『もうワインは飲み飽きました』ってセリフを聞くけど、『どうやったら飽きることができるの⁉︎』って思う。私は1千年飲んだって足りない(笑)」

Edit & Text by Shiori Fujii

関連記事

    関連記事はありません