〈bulbul〉の毎月のワインセットには、日々のワインライフを楽しくするものがなにかしらセットになっています。
2021年4月発送の第一弾は、〈foodremedies〉を主宰する長田佳子さんの、スパイスがやさしく香る焼き菓子。
鈴木 「私のワインの仕事のきっかけが佳子ちゃんだったということもあって、始まりはどうしても〈foodremedies〉にお願いしたかったんです」
長田 「ちょうど私の引っ越しのタイミングと重なってしまって、今回は難しいと何度かお断りしてしまったのですが、どうしてもという純子さんの熱意に負けて(笑)」
鈴木 「ここはどうしても譲れないと粘った(笑)。アタッシェ・ドゥ・プレスを生業としてきた私が、プライベートのライフワークであったワインも仕事として関わったのは、佳子ちゃんに〈Bar à bonbons〉と名付けたお菓子バーのイベントに声をかけてもらったのが始まりだったんです」
長田 「2017年の4月でしたね。当時、私が借りていた代々木公園のアトリエで、私の作るお菓子とワインを組み合わせて提供するというイベントでした」
鈴木 「あのとき、まだそんなに佳子ちゃんと親しかったわけでもなく、ワインの仕事をしているわけでもない私になぜ頼んだのかなと気になっていたんです」
長田 「もともと共通の友人が多くて、顔見知りではあったけれど、イベントの前に朝ごはんをご一緒したことがあって。そこでいろいろとお話しをしたら、純子さんが、『お互いのことをそんなに知らないけど、こういうふうに目と目を合わせて話すことで、90%以上感じとることができると思う』と話してくれたことが印象的で」
鈴木 「ノンバーバル(非言語)・コミュニケーション(※)の話、しましたね。合う人同士は波長で繋がることができると思っているから」
(※)対人コミュニケーションに於いて、話している内容だけでなく話し方や表情、ジェスチャーなども重要であり、93%が非言語で伝達されるという学術記事もある。
長田 「それでイベントをご一緒しませんか、と声をかけたら、想定外にたくさんの愛が返ってきて(笑)。一つのワインの伝え方から深く考えていたり、お客さまを想像してラインナップを選んだりと準備もすごく丁寧で。私はワインの生産者とか銘柄についてはまったく詳しくないけれど、純子さんの教えてくれるワインに包容力や愛を感じました」
鈴木 「ワインオタクからしたら普通のことなのかも(笑)。でもそうやって信頼関係ができ上がって、2019年に西荻窪で〈Bar à bonbons〉というイベントもご一緒しましたね。その頃からワインを仕事にしようと、私は考え始めていました」
長田 「純子さんがオンラインという手段を選んだことでも、ご時勢でオンラインの可能性が増えたことを感じました。私も今後のお菓子のレッスンはオンラインでどう伝えていこうかと考えています」
鈴木 「私自身も佳子ちゃんと同じく、どちらかというとアナログな人間で。レストランやワインバーに行くのも大好きだし、そういうお店のプロフェッショナルたちに提供してもらう空気とか新しいおいしさとかを大事にしたいと思っています。だけどフリーランスのPR・ブランディングという仕事を10年以上続けてきたなかで、念願とはいえワインの仕事に使える時間は限られていて、消去法で選んだのがオンラインという手段でした」
長田 「でも純子さんが届けたいものを、お客さまたちはきちんと受け止めてくれている気がしますね」
鈴木 「1回目の発送を終えたのち、お客様から心のこもったメッセージをたくさんいただき、驚くとともに思いは伝わるのだなと感じました。そのうえで接点をどうつくるか……、bulbulのロゴをつくってくれた大切な友でもある〈House Industries〉のアンディがいつも言う、”デジタルとアナログのスイートポイント”をつくることが大切なのかなと。例えば、インスタライブとかイベントとかね」
そんな経緯から、ようやく実現したbulbulとfoodremediesのコラボレーション。
ワインとお菓子を組み合わせることは長田さんにとって初めてのことではなかったけれど、bulbulの組み合わせ方はいつもとは少し違った様子。
長田 「今回のワインセットには、レモンケーキ、ローズマリーのサブレ、フェンネルとごぼうのクッキー、ハーブソルトクラッカー、カルダモンとホワイトペッパーのメレンゲという5種類の焼き菓子をご用意しました」
鈴木 「時間もないということで、〈foodremedies〉の定番の焼き菓子をお願いしました。以前にも食べたことがあったから、その味を思い出しながらワインを選ぶのも楽しかった」
長田 「foodremediesのお菓子とワインを一緒に提供する、という機会は今まで何度かありましたが、シュワシュワしたものだったり、かるめの白ワインだったり、一緒に食べても紅茶のように後に残らないやさしい感じが多かったんです。ところが今回、レモンケーキとぜひご一緒に、というアレクサンドル・バンさんのCuvee No.68 2018はけっこうしっかりした味わいで。一緒に食べたらなんだかすごく情熱的な印象でした」
鈴木 「私もカフェでグラス1杯だったら、そういった軽やかなワインもアリかなと思いますが、このワインセットの場合はボトル1本をじっくり味わっていただくもの。アレクサンドル・バンは私よりもおしゃべりな人で、ワインの饒舌さにも通じている気がします。また、シュール・リー(澱の上という意味)という製法でつくられたワインだから、複雑味がある」
長田 「だからかな、ずっとおしゃべりが続いている感じでした。余韻も長くて」
鈴木 「マリアージュって言うけれど、組み合わせってそのときどきで変わると思うから、絶対の正解ってないと思うんです。同じワインでも開ける日によって味わいも変わるし、気分や天気でも変わる。だからレモンケーキに合うのはすっきり辛口の白ワイン、みたいに決めるのではなく、佳子ちゃんのレモンケーキとアレクサンドル・バンのワインという出会いの面白さを味わっていただきたいなと思っています」
とにかく自然派ワインは自然の賜物であり、多様性を感じるものだというのが〈bulbul〉の持論。
鈴木 「佳子ちゃんも今年、東京から自然豊かな場所に拠点を移したのは、自分が無農薬で育てたハーブでお菓子を作りたいという気持ちからですよね」
長田 「ずっと森や山の近くに住みたいなと考えながら土地を探したりしていましたが、なかなか決まらなくて。このままだと時間だけが過ぎていってしまう、試してみないとわからないからまず動いてみよう、と、思い切って引っ越しました」
鈴木 「インスタライブでちらっと見せていただいた畑の風景、すごく素敵でした。けっこう広いですよね」
長田 「友人たちとシェアしているんですが、2反分くらいあるのかな。もとはこんにゃく畑だったそうで、20年ほど放棄されていたらしいのですが、耕しても耕しても根っこばかり出てくる。周りの農家の方々が見ていてもどかしいのか、いろいろな面倒を見てくれて助けられています。まずは身近な野菜と、コンパニオンプランツにもなるようなハーブを育てていくつもり」
鈴木 「自然派ワインの生産者が採用しているビオディナミ農法も、佳子ちゃんに合いそう。試してみてほしい!」
長田 「気になりますね。今はまだ右も左もわからない農作業ですが、これまでにやったことのないことを経験できているのが楽しくて」
ワインを扱う〈bulbul〉にも、ハーブや小麦粉といった素材を必要とする〈foodremedies〉にも、自然とともに仕事をする生産者へのリスペクトがあります。そんな2人がお届けする4月のワインセット。ワインとお菓子を味わいながら、自然へと思いを馳せるひとときになりそうです。
Edit & Text by Shiori Fujii