2021-06-22

今月のワインセット 2021/05

2021年5月発送の〈bulbul〉のワインセットに入っているのは、〈ビストロシンバ〉の
スペシャリテでもあるブイヤベースと、オーナーシェフである菊地佑自さんが信頼する生産者
〈テラマードレ〉のパクチー、そしてそのパクチーを使うルセットです。

鈴木「佑自さんのおかげで、今月のセットはなんとも豪華になりました! このブイヤベース、お店ではグリルした魚介にかかっていますが、家庭ではパスタやリゾットに仕立ててもおいしいですよね」

菊池「このブイヤベースは、日本のおいしい旬の魚介を余さず使って作っています。根本にあるのはすべて使いきりたいという想い。修行していたフランスから帰国して、日本で何を作ろうかと考えたとき、日本の魚介の豊かさに感動しました。でも魚って、おろして食べる段階でだいたい半分は捨てちゃうから、そこをどうにかできないかって考えた。

それでアジでもサバでもなんでも、頭もワタも身も全部入れて作っています。だから春夏秋冬味が違う。冬だとゼラチンっぽいかもしれないし、夏だと青っぽい味がするかもしれない。今日は水分が多いから、エビの香りでコクを出そうとか、毎回、臨機応変にバランスをとっています」

鈴木「佑自さんの料理は、そうして旨味や香りを重ねてでき上がっているんですよね。こういう料理はフランスで学んだもの?」

菊池「25歳のときに渡仏して、最初はマルセイユのガストロノミックな三つ星レストランなんかで修行していたんです。でもなんだか面白くなくて、小さいビストロとか、友達の家で食べた料理のほうがずっと響いた。

マルセイユって朝と夜は涼しくて、昼はものすごく暑かったりするんだけど、日陰だと風が吹いて涼しい。ハーブとかラベンダーとかの香りが風にのってくるようなそんな木陰で、ココットに素材をざくざく切って入れて、オリーブオイルかけてオーブンで焼いただけ、みたいなざっくばらんな料理を食べるのがめちゃくちゃよくて。そこにフレッシュなハーブとかピストゥをかけたりするのが、僕の料理の原点になっています」

そんな〈ビストロシンバ〉の風を感じていただきたくて、今月のセットには、旬のパクチーと、そのパクチーを使うピストゥなどのルセットが入っています。

鈴木 「今回のルセットのパクチーのピストゥも、美しい初夏の色と香りが美しい! ビストロシンバでは、パクチーがよく使われていますよね。根っこを素揚げしたものを最初に食べたときは、そのおいしさに衝撃を受けました。あれだけで呑めちゃう」

菊池「パクチーは根っこが特においしくて、その独特の香りを取り入れると食卓が一気に華やぎますね。葉は摘む、茎は刻む、根っこは茹でるか焼く、が基本。 パクチーというかコリアンダーはフランスでも馴染み深い食材で、バジルやディルと同様によく使っていました。旬の時期は鮮度のいいものが食べきれないほど届くから、それを長く楽しめるようにピストゥーに仕立てたりするんです」

鈴木「作り方はルセットとyou tube(https://www.youtube.com/channel/UCWd5mLCrKn6FcbJkLNNEqQQ)を見ていただくとして、とにかく素材をシンプルに食べるお料理ですね。佑自さんが香りを大事にしてくることがすごく伝わってくるし、ワインによく合う。要は呑みたくなる料理です(笑)」

菊池「僕の料理は素材ありきなんです。もちろん塩加減や火入れ、温度にもこだわっているけど、素材がおいしくなかったら料理できない。素材の生産者がいて、それを食べるお客さんがいて、その間を繋ぐのが僕の仕事。

だから今も、生産者から仕入れ続けるために、お店を休まないようにしています。新しい生産者を救うことはできないけど、今までの生産者とは相変わらずずっと付き合っていきたい。席数を減らしてるから、満席でも赤字という辛い状況ではありますが」

鈴木「どんなに忙しくても、時間をつくって生産者巡りをしていますよね。今回ご紹介いただいた〈テラマードレ〉も素晴らしい農園。ここのパクチーは本当に根っこが美しくて、パクチーが苦手な人でもおいしいって思うんじゃないかな。
ほかにも、パクチーのピストゥを使うアサリのスープ、そのスープを少し残しておいて作るパクチーパスタ、野菜のグリルにピストゥ添えというルセットも教えていただきました。パクチー尽くし!」

菊池「野菜のグリルは、しいたけの代わりに、ズッキーニとか玉ねぎの輪切りなんかでもおいしい。ちょっと焦げるくらいもおいしいですよ。焦げ目も調味料のようなもの。焼き上がりにコクを出すためにバターをひとかけら加えるのがポイントです」

鈴木「しいたけを焼きながら一杯、とか最高ですよね」

菊池「キッチンでは飲みながら料理してますよ。僕、酔拳使えますから(笑)。うちでは、お客さんも飲んでいるし、ワインの香りを嗅ぎながら料理するほうが、おいしくなると思ってる。赤身の肉を焼いてるときには赤ワインを、魚を蒸しながら白ワインを自然と選んでたりします」

鈴木「そんなシーンには、自然派ワインが最高に合いますよね」

菊池「日本で修行していたときはまだバブル期で、グランヴァンだの生まれ歳のワインだの樽の香りがどうの、って感じで。渡仏してからも自然派なんて知らなかったけれど、2005年くらいにリヨンで石田克巳さんに出会ったんです。そのとき最初に呑ませてもらったのがピエール・オヴェルノワ。『これはなんですか⁉︎』っていう衝撃でした。

それがきっかけで、そういうワインを出している店で料理を始めて。パリに来てからは、自然派ワインと、シンプルで力強い料理を出しているビストロが自分の目指す方向だと転向しました」

鈴木「〈ビストロシンバ〉には、ワインの生産者もよく訪れていますよね」

菊池「僕は農家から野菜を、漁師から魚介をいただいて料理を作る。でもワインの生産者って自分でぶどうを育てて、それで醸造してる。原作も演出もプロデュースも全部やってるというところをものすごく尊敬しているし、来てくれるときはめちゃくちゃ気合いが入ります」

鈴木「本当に生産者には尊敬しかない。私が初めて生産者を訪れたのはアルザスで、ぶどう畑を農耕馬で耕していて。山向こうの畑に行くには、車なら10分だけど、農耕馬だと2時間ほどかかるから、お昼はピクニックにしましょう、って言うんです。決して裕福ではなく、大変な仕事をしていながら、仕事中のランチをピクニックって言う。ああ、自身で選択した道のりを、人生を心から楽しんでいるんだなあっていうことが瞬時に伝わってきて、その豊かさに泣くほど感動したんです」

菊池「そう、フランスって自分の力で人生を楽しむよね。それはお金や我慢で手に入るものじゃない。例えば昼の休憩時間が2時間半くらいあるから、僕もマルセイユではボディボードを海に持って行って、海辺で休憩してました。みんなは昼食を食べに家に帰るけど、僕は寮が遠くて戻れないから、近くの海で。日本じゃ、そんなのありえない(笑)」

鈴木「私は日本でもフリーランスとして働き、それなりに自由に生きてきたつもりだったけど、フランスに行ってみたら、重力があったことを感じました。笑

日本では誰かと会話するにしても、相手の出方なんかを考えながら話していたのかもって。フランスでは、ouiって言われたらその通り。嘘も建前もなくて、それは住んでみないとわからなかった」

菊池「最初はoui ou non?ってよく言われましたね。家に誘ってくれても、これは社交辞令なのかな、フランス語話せないと気を遣わせるかな、とかいろいろ考えてしまうけど、彼らは言葉通り。嫌なことは嫌って言うし、我慢がない。渡仏してすぐに、ああ、こっちのほうが肌に合うって感じました」

鈴木「生きるのはちょっと大変だけどね。スーパーも営業時間が19時だとしたら18時半はもう帰るための支度をしてる。お客さんが来ても、もう帰るわよって。常に自分中心だから(笑)。友だちを映画に誘っても、その映画には興味がないわ、って断られたときは凹んだけれど、それは本当にただそれだけで、私を断ったわけじゃない。それに慣れると、一人一人が自立している感じがとてもラク」

菊池「性格や文化の違いもあるけれど、日本で感じていたストレスをフランスでは感じなかった。日本では努力とか根性が幅をきかせているけど、人生を楽しむっていうことを教えてくれたのはフランスですね」

鈴木「フランスの暮らしはシンプルだけど幸せ。そんなフランスのエスプリを届けたいというのも、〈bulbul〉のやりたいことなんです」

「フランスで感じる人生の豊かさが、これからの世界には必要なのではないか」と話す2人がお届けする今月のセットの、基本のワイン3本の生産者はこちら。

職人肌のシルヴァン・マルティネズ(Sylvain Martinez)が作る泡、ローザ・ブリュ2019。
パリで自然派ワインを広めた「ランジュ・ヴァン」のジャン-ピエール・ロビノ。
地品種であるピノ・ドニスが、ロビノの手にかかると素晴らしくエレガントに。リュミエール・デ・サンス2017。
鈴木が収穫と醸造を初めて長期でお手伝いしたマタン・カルムのボニカ・マリエタ2016。
6月26日(土)には、南仏ルーション地方の彼をゲストに、彼らの作品である自然派ワインを楽しみながら学ぶオンラインワイン講座を開催します。

〈bulbul〉のワインと〈ビストロシンバ〉の料理で、フランス流にアペロを楽しんでみてはいかがでしょうか。そんなひとときが、きっと人生を豊かにしてくれるはず。

Edit & Text by Shiori Fujii

関連記事